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「キャビアにゃ、とても歯が立たぬ。」

投稿日:2018年2月28日 更新日:

<たかのこういち(著)>
<松本隆治(絵)>

 

駅向こうの激辛ラーメン、人気あるのよ。

白い料理人のユニホームを着た女性が、目の前の熟年男性にいう。男性は黒いハンティング帽子を被り、濃い茶色のジャケットを着ている。二人は親子で、カフェの奥の席にいる。

父親の横に座ってアイスクリームを食べているのは、三才になる娘の子どもだ。

「お前の店だって、客が並んでるじゃないか」。父親が言う。

コーヒーカップを口に運ぶ。「でもね、シゲルはこだわってるのよ、フォアグラとキャビアに」。

シゲルは、彼女の夫で、脱サラして父と娘のラーメン店の跡継ぎとなった。本当はイタリア料理をやりたかったらしい。

「わたしはシゲルくんにまかせたんだからな、お前たちが自由にやればいいと思っているよ」。

彼女も実は迷っている。

「ラーメンは、工夫によっていくらでもメニューはできるわ。それがおもしろいのね。でも、父さんとお店を始めたとき、美味しいものを安くって、1200円以上のものは作らないと決めたでしょ。いまでもそう思ってるの」。

キャビアやフォアグラを使うと、どうしても1500円を超えてしまう。

「とてもキャビアには、歯が立たないわ」。父親は娘の悩みを嬉しそうに聞いている。

 

「美味しいものを美味しく食べるのは、幸せですね」。こたく院長が言う。

「どうなんですか?いま流行りの歯茎下り症は?」わたしは尋ねた。「自覚症状がないので、早めにきてほしいですね。歯周病になる前に」。

この町の歯を守りたい。こたく院長の願いだ。

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