未分類

「住みよい街の、ゲンキな歯。」

投稿日:2018年3月11日 更新日:

<たかのこういち(著)>
<松本隆治(絵)>

ちょうどいいんだよね、この街。若い男性が言う。専門学校の学生。

「うん、ちょうどいい」。若い女性が答える。こちらの女性はOL。

「なにが?」40代の男性が聞く。

そのテーブルには4人いて、40代の男性の横に、やはり40代の女性がいる。駅前のカフェ。バッハのフーガが流れている。

若い専門学校生は、この街に住んでいる。OLは、京王線沿線に住み、この街の駅を乗換に使っている。二人が会うのは、この街。友人以上恋人未満だが、見ていて微笑ましい二人。テーブルを挟んだ40代の男女は、夫婦。いま、スイーツの店を出すための街をさがしている。

「この街、なにがいいの?」妻が聞く。「京王線と井の頭線が通っているから、便利なの」と、OL。「都心からも30分かからないし、商店街の人たちが、なんかあったかいよね。下町みたい」。

「なるほど」。夫が、妻をのぞいてうなづく。頭のなかで(おしゃれな店も多い)と思う。

「おばさんの店、流山でしょ。近藤勇」。

「新撰組か」。専門学校生が笑う。

「お店の契約切れなの、引っ越そうと思ってるの」。妻が答える。妻は、OLの叔母にあたる。

「いろんな街を見たよ」。夫が笑う。

「なかなかむずかしくてね」。いい街は、家賃も高い。

「ちょっと入ると、おしゃれな住宅も多いですよ」。地元を知る専門学校生が言う。

人情に厚く、それでいておしゃれ。その混沌が、この街の魅力だ。

 

「先生、美味しいものを美味しく食べる。歯がゲンキでなくちゃね」。こたく院長に言う。「それが私の願いです」。院長が、得たりとばかりに微笑む。

下高井戸の歯を守る。こたく院長は、本気でそう思っている。

-未分類