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「下高井戸より愛をこめて。歯はゲンキ?」

投稿日:2018年3月25日 更新日:

<たかのこういち(著)>
<松本隆治(絵)>

「そうよ、単身赴任。ほら、子どもの学校もあるし、劇団もあるしね」。

「よく一人で行く気になったわね。インドよね」。

下高井戸は、駅から10分も歩くと、閑静な住宅街になる。家々は、一戸建てが多く、ゆったりとした庭がある。小さな子どものいる家庭は、庭を見ればすぐわかる。ブランコがある。赤い三輪車が転がっている。

「でも帰ったら取締役の席が待ってるんでしょ。羨ましいわ」。

「どうかしら。わからないわ」。単身赴任の夫をもつ妻は、創業者一族だ。

「うちのように300人くらいの零細企業は、かえって難しいのよ。社員一人一人に気を遣わなくちゃ。みんな優秀な社員だからね。あら、そうそう、駅前商店街に美味しいケーキを出す店があるの。行こうよ、今日は奢りよ」。

「いいわね。下高井戸は、懐かしいお店があるし、おしゃれなお店もあって楽しめるわ」。

二人は、緑の多い閑静な住宅街をゆっくりと歩く。駅前にはすぐに着いた。ビルの2階、「コロラド」という美味しいコーヒーを飲ませる店。午後のゆったりした時間だけど、客は多い。「ここのケーキ、美味しいのよ」。バッハのフーガが薄く流れている。そういえば、あの人、虫歯、大丈夫かしら。ふと妻は夫を思った。

 

「先生、美味しいものを美味しく食べる。歯がゲンキでなくちゃね」。こたく院長に言う。

「それが私の願いです」。院長が、得たりとばかりに微笑む。

下高井戸の歯を守る。こたく院長は、本気でそう思っている。

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